はじめに
ベトナムの会社形態を適切に選ぶことは、外国投資家による事業拡大の成否を左右する重要な判断です。ベトナム企業法は複数の選択肢を設けていますが、テクノロジー系スタートアップに適した形態が、多国籍製造企業にも適しているとは限りません。
会社形態の選択は、単なる登記手続上の問題ではありません。法的責任、税務上の義務、資金調達能力、将来のイグジット戦略にも影響します。2025年改正企業法(法律第76/2025/QH15号)および企業登録に関する政令第168/2025/ND-CP号が適用される中、2026年に適切な選択を行うためには、従来以上に慎重な検討が求められます。
1. 有限責任会社(LLC):中小企業に最も選ばれる会社形態
有限責任会社(LLC)は、外国投資家や中小企業がベトナム市場へ参入する際、現在も最も一般的に選ばれている会社形態です。
形態:一人有限責任会社(出資者1名)または二人以上有限責任会社(出資者2名以上50名以下)として設立できます。
以下は、有限責任会社の主な特徴をまとめたものです。
| 項目 | 概要 |
|---|---|
| 組織運営 | 一人有限責任会社は、出資者の属性等に応じて、会社会長または社員総会(出資者会)を置き、社長/総社長を選任します。二人以上有限責任会社は、社員総会(出資者会)、同会会長および社長/総社長を置きます。 |
| 所有・管理 | 出資者の変更は厳格に管理されます。持分を譲渡する場合、原則として、既存出資者に対してその持分を優先的に譲渡する必要があります。 |
| 法的責任 | 出資者は、会社に出資した金額の範囲内で、会社の債務その他の財産上の義務を負います。 |
| 資金調達 | 所有者もしくは既存出資者による増資、または新規出資者の受入れが可能です。ただし、株式の発行および証券取引所への上場はできません。 |
選ばれる理由:組織運営が比較的簡素で、経営権を管理しやすく、出資者の責任が有限であるためです。
留意点:有限責任会社は株式を発行できず、証券取引所にも上場できません。将来の上場を計画している場合は、最終的に株式会社への組織変更手続きが必要となります。
2. 株式会社(JSC):大規模事業と柔軟な資金調達に適した形態
株式会社(JSC)は、大規模な資金調達を計画する中堅・大企業向けに設計された会社形態です。
形態:最低3名の株主が必要で、株主数に上限はありません。
以下は、有限責任会社と株式会社の主な違いです。
| 比較項目 | 有限責任会社(LLC) | 株式会社(JSC) |
|---|---|---|
| 最低出資者数 | 1名、または2名以上50名以下 | 3名以上の株主。上限なし |
| 株式発行 | 不可 | 可能 |
| 証券取引所への上場 | 不可 | 上場要件を満たす場合は可能(HOSE/HNX) |
| ガバナンス | 会社の類型に応じて比較的簡素 | より複雑(株主総会、取締役会および選択した機関設計に応じた監督体制) |
| コンプライアンスコスト | 一般に比較的低い | ガバナンスおよび社内手続が複雑なため、一般に比較的高い |
戦略上のメリット:資金調達力が高く、株式を比較的柔軟に譲渡できるため、ベンチャーキャピタルやプライベートエクイティ投資家にとって魅力的です。
トレードオフ:組織運営が複雑になり、コンプライアンスコストも高くなります。
3. 駐在員事務所(RO):市場調査のための低コストな進出形態
市場調査や海外親会社の連絡拠点の設置が目的であれば、駐在員事務所(RO)は、最も費用対効果の高い初期進出形態となり得ます。
以下は、駐在員事務所の主な特徴です。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 収益を生む事業活動 | 不可 |
| 自己名義による商業契約の締結 | 不可 |
| 適した用途 | 品質管理、ブランドプロモーション、フィージビリティ調査および市場調査 |
| 法定の許可処理期間 | 原則として、有効な申請書類一式の受理後7営業日。書類の補正または専門機関への照会が必要な場合、実際の所要期間はこれより長くなることがあります。 |
| 税務コンプライアンス | 駐在員事務所は収益を生まないため、税務上の義務は一般に限定的です。ただし、従業員に給与を支払う場合は、個人所得税の申告・納付が必要です。 |
制限:駐在員事務所は、直接利益を生む事業活動を行うことも、自己名義で商業契約を締結することもできません。
主なメリット:設立が比較的迅速で、税務上の義務も限定的です。
4. 支店:利用は限定的だが、特定のケースでは有効
駐在員事務所とは異なり、支店は商業活動を行うことができます。ただし、支店は親会社から独立した法人ではありません。
以下は、支店と有限責任会社の主な違い、とりわけ責任リスクを示したものです。
| 比較項目 | 支店 | 有限責任会社(比較) |
|---|---|---|
| 法人格 | 親会社から独立していない | 親会社・出資者とは別個の法人 |
| 親会社の責任 | 支店の事業活動について原則として無限責任 | 出資額の範囲内で有限責任 |
| 外国投資家への推奨度 | 限定的(特定業種・特定目的の場合) | 多くのケースで推奨 |
ベトナム支店の活動について親会社が無限責任を負うため、多くの法律アドバイザー(TT Collabを含む)は、親会社の資産を保護する観点から、支店よりも有限責任会社を選択することを推奨しています。
5. ベトナムの会社形態を選ぶ際の重要ポイント
基本的な定義だけでなく、外国投資家は、次のような実務上の重要要素も検討する必要があります。
| 検討項目 | ポイント |
|---|---|
| 条件付き事業分野・市場参入制限 | 物流、観光、広告、不動産事業などの一部の分野では、投資条件、市場参入条件または追加の事業許可が課される場合があります。業種および適用される国際約束によっては、外国資本比率の制限またはベトナム国内パートナーとの提携が必要となることがあります。 |
| 利益の国外送金 | 外国投資家は、企業が財務上の義務を履行し、監査済み財務諸表および法人所得税の確定申告書を提出した後、適法な利益を国外へ送金できます。繰越欠損金が残る年度の利益は送金できず、送金日の少なくとも7営業日前までに所轄税務当局への通知が必要です。 |
| 企業識別番号 | 「1企業・1コード」の制度により、各種行政手続が簡素化されています。 |
有限責任会社・株式会社のいずれも、これらの財務上の義務を履行すれば利益の国外送金が可能です。両者で異なるのはイグジット時に必要な書類であり、株式会社における株式譲渡と有限責任会社における出資持分譲渡とでは、必要となる書類が異なります。
「1企業・1コード」政策により、企業登録番号(企業コード)は、税務番号、社会保険番号および事業登録番号を兼ねます。この仕組みによって、どの会社形態を選択した場合でも、設立後の各種行政手続きが簡素化されます。
まとめ:事業目的に合ったベトナムの会社形態を選ぶ方法
ベトナムの会社形態には、すべての企業に共通する唯一の正解はありません。事業目的、投資規模、資金調達計画、リスク許容度に応じて判断することが重要です。
| 目的 | 推奨される形態 |
|---|---|
| 経営権を全面的に確保し、管理を簡素化しながら安全に市場参入したい | 有限責任会社(LLC) |
| 複数回の資金調達を行い、将来的に東南アジアでのIPOを目指したい | 株式会社(JSC) |
| まずは市場を調査し、売上を伴わない拠点を設置したい | 駐在員事務所(RO) |
TT Collabは、単に選択肢を提示するだけではありません。お客様の5年間の事業計画を分析し、現在選ぶ法的形態が将来の成長を妨げるボトルネックとならないよう、実務的な観点から支援します。
ベトナムの会社形態に関するよくある質問
1. 外国投資家に最も一般的な会社形態は何ですか?
多くの外国投資家や中小企業には、組織運営が比較的簡素で、出資額の範囲内で責任を負う有限責任会社(LLC)が選ばれています。ただし、最適な形態は事業目的や資金調達計画によって異なります。
2. 株式会社と有限責任会社の主な違いは何ですか?
株式会社は株式発行による資金調達や将来の上場に適している一方、有限責任会社はガバナンスが比較的簡素です。ベトナムの会社形態を選ぶ際は、投資家数、資金調達方法、管理コストを比較する必要があります。
3. 駐在員事務所はベトナムで売上を得られますか?
いいえ。駐在員事務所は市場調査や連絡業務などに利用できますが、原則として収益を生む事業活動や自己名義での商業契約の締結はできません。
法的根拠(2026年版):企業法(法律第59/2020/QH14号、法律第76/2025/QH15号により改正)、企業登録に関する政令第168/2025/ND-CP号、投資法(法律第143/2025/QH15号)、外国商人の駐在員事務所および支店に関する政令第07/2016/ND-CP号、ならびに外国投資家の利益送金に関する財務省通達第186/2010/TT-BTC号。
免責事項: 本記事は一般的な情報提供を目的とするものであり、個別案件に対する法務・税務上の助言ではありません。法令や行政実務は変更される可能性があるため、具体的な投資・会社設立に際しては専門家へご相談ください。
