はじめに
ベトナム会社設立は、東南アジアで事業を拡大する外国投資家にとって有力な選択肢の一つです。ベトナムは、市場規模、自由貿易協定のネットワーク、地域サプライチェーンにおける役割を背景に、魅力的な投資先となっています。ただし、会社設立は企業登録証明書を取得するだけでは完了せず、市場参入条件、所在地、資本金、税務、労務および業種別許認可も併せて確認する必要があります。
2025年投資法および政令第96/2026/NĐ-CP号により、外国投資家は、市場参入条件その他の法定要件を満たす場合、IRCの取得前に会社を設立することができます。この場合、会社設立日から12か月以内にIRCの取得手続を完了する必要があり、IRC取得前に投資プロジェクトを実施することはできません。
| ポイント:すべての外国投資に新規IRCが必要となるわけではありません。既存会社への出資、新規投資プロジェクトの実施、駐在員事務所の設置では、それぞれ条件と手続が異なります。 |
1. ベトナム会社設立に適した進出形態を選択する
申請準備を始める前に、売上計上および請求書・電子インボイスの発行、ベトナム企業との協業、既存会社の買収、または市場調査のいずれを目的とするかを明確にします。駐在員事務所は会社ではなく、直接収益を生む事業活動を行うことはできません。
| 形態 | 適するケース | 主な留意点 |
|---|---|---|
| 一人有限責任会社 | 単独出資者が簡素なガバナンスを希望する場合 | 出資額の範囲で有限責任 |
| 二人以上有限責任会社 | 2~50名の出資者(社員)で持分譲渡を管理したい場合 | 柔軟な運営が可能だが株式発行は不可 |
| 株式会社 | 3名以上の株主で幅広い資金調達を予定する場合 | ガバナンスと社内手続がより複雑 |
| 株式・持分取得 | 既存会社を通じて早期進出したい場合 | 法務・税務デューデリジェンスおよび事前登録の要否を確認 |
| 駐在員事務所 | 市場調査、販売促進、連絡業務 | 独立した法人格はなく、直接売上を計上できない |
2. 申請前の条件確認
実現可能性を左右する主な項目は、事業分野、外資比率、所在地および業種別許認可です。企業登録上の事業分野に記載されても、それだけで当該事業を実施できるとは限りません。
| 確認項目 | 実務上の確認事項 |
|---|---|
| 市場参入条件 | 外資比率の制限、ベトナム側パートナーまたは特別条件があるか |
| 所在地 | 用途が適法か、貸主に賃貸権限があるか |
| 資本金 | 事業規模、運転資金、業種要件に見合うか |
| 投資方針承認 | 登録前に承認が必要なプロジェクトか |
| 業種別許認可 | 営業、小売、教育、物流、環境等の追加許可が必要か |
3. IRC・ERCの申請順序を選択する
IRCは投資プロジェクトを記録し、ERCは会社の設立と企業コードを証明するものであり、両者は相互に代替できません。そのため、プロジェクト登録が必要な場合は、法令と準備状況に応じて適切な手続ルートを選ぶことが重要です。
| ルート | 手続 | 検討に適する場合 |
|---|---|---|
| IRC → ERC | プロジェクトを登録した後、会社を設立 | 法令またはプロジェクトの性質上、IRCの先行取得が必要な場合、または会社設立や重要な支出の前にプロジェクトの実現可能性を確認したい場合 |
| ERC → IRC | 会社設立の申請書類に市場参入条件を満たす旨の誓約を記載して会社を設立し、12か月以内にIRC手続を完了 | スキームが明確で、適法な準備行為のため早期に法人が必要な場合。IRC完了前はプロジェクトを実施できない |
| 持分取得 | 必要な場合は事前登録後、出資者・株主を変更 | 既存ベトナム企業への出資。新規IRCが当然に必要となるわけではない |
4. 必要書類と処理期間
法定期間は、有効な申請書類一式が受理された時点から起算されます。外国書類の領事認証、補正、関係機関への照会が必要な場合、実際の期間は長くなることがあります。
| 段階 | 期間の目安 | 留意点 |
|---|---|---|
| 書類準備 | 通常1~3週間以上 | 投資家資料、財務能力、所在地、翻訳および領事認証 |
| 通常のIRC(該当する場合) | 投資方針承認の対象外では原則15日 | 全案件に同じ期間が適用されるわけではない |
| ERC | 有効な申請書類について3営業日 | 実質的所有者(受益所有者)に関する現行の申告要件にも対応 |
| 設立後手続 | 通常2~6週間 | 銀行、出資、税務、電子インボイス、会計、労務、業種別許可 |
5. 定款資本と投資資金
定款資本とプロジェクトの投資総額は必ずしも同額ではありません。実施費用、運転資金、業種要件を踏まえて設定します。出資者(社員)または株主は、原則としてERC発行日から90日以内に定款資本を払い込む必要があります。ただし、現物出資の輸送、輸入および所有権移転手続に要する期間には法定上の取扱いがあります。
| 項目 | 実務上の提案 |
|---|---|
| 資本口座 | 適用される場合は直接投資資本口座を開設し、正しい口座・通貨で送金 |
| 出資期限 | 企業法、IRC、プロジェクト上の約束を一体として管理 |
| 証憑 | 銀行証憑、評価資料、現物出資の所有権移転資料を保存 |
| 不足・遅延 | 期限前に変更手続の要否を確認し、登録内容と異なる出資を行わない |
6. 会社設立後の対応
ERC取得は運営段階の開始にすぎず、すべての事業を許可するものではありません。各事業について条件と許認可を満たしてから開始する必要があります。
| 分野 | 主な対応 |
|---|---|
| 企業統治 | 定款・社内決議を整備し、定款に従って印章を管理し、実質的所有者に関する情報を作成・保存 |
| 銀行・資本 | 必要な口座を開設し、期限内に出資し、投資資金の流れを管理 |
| 税務・会計 | 電子署名および使用前の電子インボイスを整備し、税務申告・会計体制を構築 |
| 労務 | 労働契約、対象者の社会保険、外国人の労働許可・在留手続を実施 |
| 投資・許認可 | 投資活動報告を行い、規制業種は開始前に営業許可・業種別許可を取得 |
7. 進出を遅らせる典型的なミス
遅延の原因は書類の量だけではありません。事業分野とプロジェクトの不整合、不適切な所在地、根拠の乏しい資本金、外国書類の不備が主な原因となります。
| 典型的なミス | 予防策 |
|---|---|
| 所在地を先に確定する | 長期契約・高額な保証金の前に、用途、賃貸権限、業種要件を確認 |
| 目的が曖昧または広すぎる | プロジェクト目的、ベトナム事業コード、必要に応じCPCコードを区別 |
| 証明書交付だけで日程を組む | 書類準備、補正、銀行、業種別許可の期間も確保 |
| 根拠なく資本金を設定する | 12~24か月の予算と業種別資本要件を確認 |
| ERC取得後すぐ営業できると考える | 事業ごとに開始前コンプライアンス・チェックリストを作成 |
8. よくある質問
1. 最低資本金はありますか。
すべての会社に共通する最低資本金はありません。ただし、法定資本または財務能力要件のある業種があり、プロジェクト規模に照らして合理的な金額を設定する必要があります。
2. 法定代表者はベトナム人でなければなりませんか。
いいえ。居住、ガバナンスその他の要件を満たせば、外国人も法定代表者になれます。企業法に従い、少なくとも1名の法定代表者が常にベトナムに居住する体制を確保する必要があります。
3. 印章見本の登録は必要ですか。
従来の印章見本通知手続は不要です。会社は法令および定款に従い、印章の種類、数量および管理方法を決定します。
4. いつから事業を開始できますか。
プロジェクトによって異なります。ERCだけで全事業を開始できるわけではなく、必要なIRC、出資、税務、電子インボイス、業種別許認可を完了する必要があります。
まとめ
円滑なベトナム会社設立は、申請書の作成ではなく、適切な投資スキームの設計から始まります。事業内容、所在地、資本構成、IRC・ERCの手続順序および設立後の義務を一体として検討することが重要です。
TT Collabは、市場参入条件の確認、会社形態・申請順序の検討、IRC・ERC申請、業種別許認可の調整および設立後のコンプライアンス体制整備を支援します。
主な法的根拠
- 2025年投資法(第143/2025/QH15号、2026年3月1日施行)
- 2020年企業法(第59/2020/QH14号)および2025年改正法(第76/2025/QH15号)
- 政令第96/2026/ND-CP号
- 政令第168/2025/ND-CP号(政令第296/2026/ND-CP号による改正を含む)
| 免責事項:本稿は一般的な情報提供を目的とし、個別案件に対する法務・税務助言ではありません。申請または重要な支出の前に最新要件をご確認ください。 |
