はじめに
ベトナムのIRCとERCは、外国投資家がベトナムで会社を設立する際に理解しておくべき重要な証明書です。IRC(投資登録証明書)は投資プロジェクトに関する情報を証明し、ERC(企業登録証明書)は会社の設立および法人としての登録情報を証明します。両者は目的と法的機能が異なります。
2025年投資法および政令第96/2026/ND-CP号の施行により、一定の条件を満たす外国投資家は、IRCを取得する前に経済組織を設立できる場合があります。ただし、IRC手続が完了する前に投資プロジェクトを実施できるとは限りません。
会社設立を進める前に、外資参入条件、投資形態、事業内容、所在地、資本金および業種別許可を確認し、案件に適した申請順序を設計することが重要です。
ベトナムでの法人設立全体の流れ、必要書類および設立後の手続については、ベトナム会社設立:外国投資家向け完全実務ガイドもご参照ください。
要点: IRCは一般的な「営業許可証」ではなく、ERCもIRCや業種別許可に代わるものではありません。適切な順序は、投資形態、事業分野、所在地およびプロジェクトの準備状況によって異なります。
1. IRCとERCの違い
ベトナムのIRCとERCを比較すると、IRCは投資プロジェクトを対象とし、ERCは事業を行う会社の設立を対象とする点が最も重要な違いです。
| 比較項目 | IRC | ERC |
|---|---|---|
| 役割 | 投資プロジェクトの内容・条件を記録 | 会社の成立および企業コードを証明 |
| 主な記載事項 | 投資家、目的、所在地、投資額、進捗、期間 | 名称、本店所在地、定款資本、法定代表者 |
| 管轄機関 | プロジェクトの所在地・類型に応じた管轄投資登録機関 | 省級の管轄企業登録機関 |
| 実務上の意味 | 記載範囲内でプロジェクトを実施する基礎 | 会社が各種手続を行うための基礎 |
2. IRCが必要となるケース
すべての外国投資に同一の手続が適用されるわけではありません。投資形態を確認してからIRCの要否を判断します。
| ケース | 通常の取扱い | 注意点 |
|---|---|---|
| 新規プロジェクトのための会社設立 | 適用される順序に従いプロジェクトおよびIRC手続を実施 | 条件を満たせばIRC先行またはERC先行を選択可能 |
| 既存会社の株式・持分取得 | 新規IRCが当然に必要となるわけではない | 持分取得の事前登録が必要となる場合あり |
| 既存IRCプロジェクトの拡張 | IRC変更または新規プロジェクトを検討 | 目的、所在地、規模、実施形態による |
| 条件付事業 | IRC/ERCだけでは事業開始不可 | 市場参入条件および業種別許可が必要 |
したがって、「外国投資家はすべてIRCを取得しなければならない」という説明は正確ではありません。
市場調査、取引先との連絡または商業促進のみを目的とし、ベトナムで直接収益事業を行わない場合は、会社設立ではなくベトナム駐在員事務所の設置が選択肢となる場合があります。
3. 新制度における二つの設立ルート
政令第96/2026/ND-CP号第72条では、二つの手続ルートが認められています。ERC先行制度はIRCを免除するものではなく、手続の順序を変更するものです。
| 順序 | 手続 | 主なリスク・制限 |
|---|---|---|
| IRC → ERC | 投資プロジェクトを登録した後、会社を設立 | 複雑な条件や所在地を伴う案件では確実性を確保しやすい |
| ERC → IRC | 会社設立後12か月以内にIRCを取得 | IRC取得前は準備行為に限定。プロジェクト実施不可。想定どおりIRCが得られないリスクあり |
実務上の提案: 単に会社設立を早める目的だけでERC先行を選ぶべきではありません。市場参入条件、事業目的、所在地の使用権、財務能力および業種別許可を先に確認することが重要です。
IRC・ERCの申請順序に加えて、出資者数、ガバナンス、資金調達および持分譲渡を踏まえ、適切な会社形態を選択する必要があります。詳しくは、ベトナムの会社形態に関する比較ガイドをご参照ください。
4. 手続と想定スケジュール
以下は計画上の目安です。法定期間は有効な申請書類一式の受理後に起算され、補正や関係機関への照会により実際の期間が長くなる場合があります。
| 段階 | 対応内容 | 法定期間の目安 | 確認事項 |
|---|---|---|---|
| 1 | 事業分野、投資形態、所在地、投資方針承認(Investment Policy Approval)の要否を確認 | 案件による | 市場参入条件・計画 |
| 2 | 投資家資料、事業提案、財務能力資料を準備 | 1~3週間以上 | 領事認証、翻訳、所在地資料 |
| 3 | 必要に応じIRC手続 | 手続類型による。通常案件は15日が一つの目安 | 全案件に同一期間は適用されない |
| 4 | ERC申請 | 有効な書類受理後3営業日 | 補正時は実際の期間が延びる |
| 5 | 許可取得後の手続 | 通常2~6週間 | 資本、銀行、税務、労務、インボイス、業種別許可 |
5. 審査期間と実務上の注意点
会社の定款資本とプロジェクトの投資総額は必ずしも同額ではありません。定款資本と投資総額は、資金需要およびプロジェクトの実施スケジュールとの整合性を確保して設定する必要があります。
| 項目 | 原則 | 主なリスク |
|---|---|---|
| 定款資本 | 企業法および定款に従い出資。一般にERC交付から90日以内。現物出資の輸送・所有権移転等には例外あり | IRCの進捗との混同、誤った口座への送金 |
| 投資総額 | 投資家の出資および適法な調達資金を含む | 事業規模に対して過少、または投資家の資金調達能力に比して過大 |
| 出資スケジュール | 企業法、IRCおよび投資家の約束を同時に確認 | 一つの期限だけを管理 |
6. IRCまたは企業情報の変更が必要となる場合
「軽微な変更であれば手続は不要」と一律に判断することは適切ではありません。20%基準はあくまで一定の投資方針変更に関係するものであり、20%未満の投資額変更であれば常にIRC変更が不要になるわけではない点にご留意ください。
| 変更内容 | 検討する手続 | 注意点 |
|---|---|---|
| 名称、所在地、法定代表者 | 企業登録変更。IRC・関連許可も確認 | IRC記載情報であれば変更・更新が必要となる場合あり |
| 目的・事業分野 | プロジェクト目的、企業登録、市場参入条件、業種別許可を確認 | ERCだけで登録されたすべての事業が許可されるわけではない |
| 定款資本・投資総額 | 企業法、投資法、IRCの各義務を確認 | 20%未満でも、当然にIRC変更手続が免除されるわけではない |
| 所在地・規模 | IRC、土地、建設、環境等の変更を検討 | 所在地を適法に使用する権原も確認 |
具体的な順序は、変更内容および取得済みの許認可によって異なり、常に「IRCを先に変更し、その後ERC」とは限りません。
7. ERC取得後に必要な手続
IRCとERCの取得は、事業開始に向けた手続の一部にすぎません。主に次の対応が必要です。
- 投資形態に合った直接投資資本口座および決済口座を開設する。
- 所定の期限・通貨・送金口座を遵守して出資を行い、銀行取引に関する証憑を保管する。
- 税務、電子署名、電子インボイスおよび会計体制を整備する。
- 必要な営業許可、小売許可、業種別許可を確認・取得する。
- 雇用、社会保険、外国人の労働許可・在留手続を行う。
- 所定の投資活動報告を提出し、プロジェクトの進捗を確認できる資料を保管する。
8. ベトナムのIRCとERCに関するよくある質問
1) ERC取得後すぐに事業を開始できますか。
必ずしも開始できません。IRCが必要なプロジェクトではIRCを取得し、市場参入条件および業種別許可を満たす必要があります。
2) ERC先行ならIRCを省略できますか。
できません。会社設立後12か月以内にIRCを取得し、IRC手続完了前はプロジェクトを実施できません。
3) 投資総額の変更が20%未満ならIRC変更は不要ですか。
一律に不要とはいえません。20%基準はIRC変更の一般的免除基準ではありません。
4) IRCはinvestment licenceですか。
実務上広い意味でinvestment licenceと呼ばれることがありますが、正式な英語名称はInvestment Registration Certificateです。
5) どちらの順序を選ぶべきですか。
条件が複雑で、事前に確実性を確保したい場合には、IRC先行ルートが適しています。投資スキームが明確で、法令上認められる準備行為を早期に開始する必要がある場合には、ERC先行ルートを検討できます。
まとめ
まとめると、ベトナムのIRCとERCを正しく理解することは、適切な市場参入手続を選択するうえで不可欠です。両者は相互に代替できるものではありません。ERC先行ルートは手続上の選択肢を広げる一方で、準備段階のリスクを投資家自身が負うことになる点に留意が必要です。したがって、事業分野、所在地、資本構成、市場参入条件および実際の運営計画を踏まえたうえで、適切な手続順序を決定することが望まれます。
TT Collabは、投資形態・申請順序の検討、所在地・市場参入条件の確認、IRC/ERC申請および許可取得後のコンプライアンス体制の整備を支援します。個別案件については、当社の専門スタッフまでお問い合わせください。
主な法的根拠
- 2025年投資法(第143/2025/QH15号)
- 2020年企業法および2025年改正法
- 政令第96/2026/ND-CP号
- 政令第168/2025/ND-CP号(政令第296/2026/ND-CP号による改正を含む)
- 通達第68/2025/TT-BTC号
- 通達第55/2026/TT-BTC号
免責事項: 本稿は一般的な情報提供を目的とし、個別案件に対する法務・税務助言ではありません。管轄機関、書類および実務は所在地、事業分野、投資形態により異なるため、申請・支出前に最新要件をご確認ください。
